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● SKULL DRAIN’s --- 過去の無い僧侶 ●

「おはよう、アルドール」
もう一人の雨季羽が言った。
明らかに彼を見下すような、バカにしたような挑発的な目付きで。
「・・・お前は、誰なんだ」
雨季羽は、もう一人の自分に問いかける。
「俺はリオン。訳有りでお前の心の中に住んでる、獅子の化身さ」
もう一人の雨季羽はリオンと名乗った。
「安心しろよ。俺は世界で一番、お前を愛している。危害は加えないさ」
リオンは言いながら雨季羽に歩み寄ってくる。
「アルドール、俺はお前と一緒に居る・・・ずっとずっと一緒だ」
リオンはニコっと微笑み、
「あっ・・・・!?」
雨季羽を抱きしめた。
驚いて、雨季羽は何度も瞬きをする。
「大丈夫、お前は一人じゃない。一人にさせない」
耳元で聞こえるリオンの声。
・・・と言う名の自分の、雨季羽の声。
何故だか安心できる、優しい声。
「さぁ、目を瞑るんだ。何も考えなくていい、ただ頭の中を空っぽにするんだ」
リオンが言う。
相変わらず優しい自分の声で。
その瞬間、酷い睡魔が雨季羽を襲い、
雨季羽は逆らうことなく、重くなった瞼を閉じた。




笑みを浮かべ、チヒロはコルセスカの刃を雨季羽に向ける。
「・・・・・・なっ!?」
しかし、彼は途端に顔を引き攣らせた。

チヒロの右足を、雨季羽がしっかりと掴んだのだ。

そして気を失っていた雨季羽は目を開けた。
彼の瞳は、普段の金色から、リオンのような、
と言うよりかは、リオンの紅い瞳へと色が変化している。
チヒロは雨季羽の腕を振り払おうとするが、
骨を折ろうとしているぐらいの力で掴まれており、離れない。
「テメェ・・・よくもやってくれたな・・・・」
低いトーンで雨季羽が呟く。
そして雨季羽は、血の色をした瞳で、
チヒロの紫の瞳を見つめながら口の端を上げて笑った。

「死ぬのはテメェの方だ」






「・・・・っ!!」
長い悪夢を見ていたような恐怖感。
頭の割れそうな激しい頭痛、込み上げる吐き気。
強い不快感に襲われ、雨季羽は目を覚ました。
何度も瞬きをする目。
そこから見える瞳の色は、いつも通り金色だった。

しかし不思議なのは、ここがリゴク洞窟でも、
リオンと出会った“黒の世界”でも無い事だった。
目に飛び込んでくる景色は、木材で作られた建物だろうか。
太い木の梁が見える。
天井はさほど高くは無さそうだが。
「(・・・此処は・・・)」
どうなったか思い出そうとした。
「(ダメだ・・・気を失ってばかりで、記憶が・・・)」
心の中で問いかけてもリオンは返事をしない。
そんな中、徐々に体の感覚が戻ってきた。
辺りを確認しようと、上体を起こす。
「いてぇっ!!」
体に痛みが走る。
思わず声が上がってしまった。
「っつぅ・・・・」
あまりの痛さに、体の動きが止まる。
それを我慢して顔を上げ、辺りを確認する。
すると、一人の女性が歩み寄ってきた。
結構美人な女性だ。
「・・・大丈夫?」
すこしスローペースな、ゆったりとした話し方で、
女性は雨季羽に声を掛けてきた。
辺りを見回す限り、普通の、木造の家だ。
窓からは燦々と太陽の日が差し込んでいる。
きっと今は、朝か昼頃なのだろう。
「えっと・・・」
名乗るべきか?でも相手がレナール騎士団関係者なら逮捕される可能性もある。
じゃあ尋ねるべきか?何から訊けばいい?
まず初めにどうするべきか迷い、雨季羽は口ごもった。
「今、お昼ご飯作ってるから。ちょーっとだけ待っててねぇ」
女性は雨季羽に微笑みかけた。
「お姉さんはソニアって言うの。ソニア=プロットよ」

ソニア=プロット。
此処に暮らすごく普通の村人である女性。
とにかくマイペースで、のんびり屋さんな性格だ。

「貴方は、何かお仕事をなさってるんですか?」
此処で『騎士団所属』と言われれば、早いうちに距離を取っておきたい。
雨季羽が訊くと、ソニアは笑顔で、
「無職です♪」
と、答えた。
大丈夫そうか、と思い、雨季羽は少しだけ安心する。
「君は何て呼べばいいのかなぁ?」
そう思っていた途端、ソニアの方から訊いてきた。
「雨季羽と申します」
「はぁい、雨季羽くんね・・・あぁ、お姉さんに気を使うことは無いんだよ?
別に、そんなにかしこまらなくても大丈夫だからねぇ」
スローペースな彼女の話し方には少々調子が狂う。
とにかく、歓迎はされているようだ。
「・・・・あの、俺はどうして此処に・・・?」
雨季羽が訊いた、その瞬間。
いきなりドアが開いた。
そこから家に入ってきたのは一人の女性。
髪の色は全く違うが、顔立ちはソニアに似ていて、眼鏡をかけている。
「あらヤエルちゃん。おかえりぃ〜」
ソニアが言うと、女性は何も言わず、
真っ先に雨季羽の元へと歩み寄ってきた。
「体調は如何でしょうか」
機械的な抑揚の無い口調で女性は言う。
「あ、あぁ・・・少し体が痛むけど、大した事はない」
雨季羽が答えると、無表情だった女性の口元が綻んだ。
「自分はヤエル=プロットと申します。あちらにいるソニアの妹です」
女性はそう名乗った。

ヤエル=プロット。
ソニアの実の妹で、彼女と共にここで暮らしている女性。
姉のソニアとはかなり対照的な性格で、
実は聖剣を求めるハンターだったりする。

「俺は雨季羽です」
ヤエルに釣られて雨季羽も丁寧語になる。
すると、ヤエルは微笑んだ。
「ふふ・・・そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ。
名前も呼び捨てで構いませんし、言葉遣いもお気になさらずに」
と、ヤエルは言う。
そこで雨季羽は、2人が姉妹だと言う事に納得した。
全く同じセリフを言ったからだ。
「そうそう。ヤエルちゃん、お姉ちゃんはご飯の支度があるから、
雨季羽くんの事、ちょっと頼めるかなぁ?」
ソニアが言うと、ヤエルは頷いた。
そしてソニアは台所へと戻っていく。
ヤエルは、テーブルを挟んで、雨季羽の向かい側にあるソファに腰掛けた。
「では最初に、これをお返ししておきます」
ヤエルはそう言って、スカートのポケットから、
かなり透明感のある紫色のビー玉を取り出した。
『返す』と言われたものの、このようなガラス玉に見覚えは無い。
「・・・これは?」
雨季羽が訊くと、ヤエルは少し驚いたような顔をした。
「貴方を発見したとき、貴方が左手で握っていたものですが・・・」
「俺が?そんな・・・見覚えは無いが・・・」
「とにかく、貴方が握っていた事には間違いないので・・・一応、お渡ししておきます」
「ああ・・・」
ヤエルがそう言うので、渋々雨季羽はそれを受け取った。
「今は調査の段階ですので何とも言えませんが・・・ともかく、自分が見た情報をお伝えします」
彼女はまた無表情になった。
「自分は聖剣を狙うハンターです。故に、手掛かりを求めていました・・・
そんな時、ある協力者から、リゴク洞窟に『チヒロ=ベルフラワー』が住み着いていると聞き、
“ベルフラワーのコルセスカ”もそこに有ると断定。自分はリゴク洞窟に向かいました」
淡々とした口調でヤエルは語る。
「そこで、雨季羽さん達を見つけたんです」
そのヤエルの言葉で、雨季羽はようやく思い出した。

チヒロによって、ルキとミリスが倒れた事を。

すっかり自分の事で頭から抜け落ちていた。
「あの、2人は・・・俺と、男の子と女が居たはずだ!」
思わず感情的になり、雨季羽は訊く。
「自分とソニアで保護しております。今は2人とも、奥の部屋のベッドで眠っています。
確かに傷は深いようでしたが・・・治癒術も施しましたし、命に関わる怪我ではありません」
それを聞き、雨季羽はホッとした。
どうやら無事なようだ。
「ただ、一つ聞きたいのです」
ヤエルは相変わらず無表情だが、
そう言った声は、何処か威圧感があった。
「自分が駆けつけたときには、もう既に・・・チヒロは息絶えていました。
それも、残酷な程に、大量の血と傷を残して・・・惨い死に方でした」
声が出なかった。
チヒロが、死んでいた?
「一体何があったのですか?貴方達は気を失って倒れ、チヒロは斬り刻まれていた。
自分と、そのとある協力者は、そこがどうも疑問なのです」
ヤエルは右手で眼鏡を直しながら言う。
「俺も知らない・・・気を失って倒れていたから・・・」
雨季羽はとりあえずそう答えたが、すぐに自嘲的な笑みを浮かべて、
「恐らく、俺がやったんだと・・・思うよ、多分」
俯いて言った。

―死ぬのはテメェの方だ―

そう言ったのは覚えている。
そこから先の記憶は無い。
だとすれば、自分がやったのだろう。
自分、と言うよりかはリオンが。
「俺が殺した。でも何があったかは全く分からない」
雨季羽は再度言う。
すると、ヤエルは暫らく考え込んだ。
「・・・では、質問を変えます。何故、貴方達はリゴク洞窟へ?」
ヤエルはもう一度眼鏡を直して訊く。
「俺もハンターで、チームを組んでいるんだ。コルセスカを探しに洞窟へ行ったんだが・・・
途中でレナール騎士団に出くわして」
「なるほど。だからルキ=フェンラッドがあんな場所に倒れていたのですね」
「知ってるのか?」
「フェンラッド兄弟は有名ですし、自分も追い回された事があります」
どうやらハンターには誰彼構わず追い回しているようだ。
「で、交戦中に地震が起こって天井が崩れたんだ」
「ええ、確認済みです。確かに壁となって、崩れた天井が道を塞いでいました」
「それで、俺のチームとフェンラッド兄弟がバラバラになって・・・・・
仕方ないから、コルセスカを手に入れて、この洞窟を抜けようと」
「事情は分かりました」
ヤエルは頷く。
が、雨季羽にはまだ疑問があった。
「ところで・・・ルキを保護して大丈夫なのか?見習いとは言っても、レナール騎士団だぞ」
「怪我人を放置するワケにはいきませんから」
ヤエルは当然のように答え、
雨季羽もまた、その答えが当然であるかのように頷いた。
そこでソニアが振り向いた。
「ヤエルちゃん、ちょっと運ぶの手伝って」
「うん、分かった」
呼ばれてヤエルは立ち上がる。
「俺も何か手伝いを・・・・・」
と、雨季羽も立ち上がろうとしたが、
「怪我人は黙っていなさい」
低いトーンの声でヤエルに制止された。




昼食が終わり、雨季羽は、
満腹感と陽の暖かさによる睡魔に襲われる。
うとうとしていると、ソニアがクスクスと笑った。
「雨季羽くんって、何だか、ふとした仕草がとっても可愛いのよねぇ」
すると、隣に座っていたヤエルが、
ソニアの腕を肘で小突いた。
「ソニア、年頃の男の子に向かって『可愛い』なんて失礼よ」
ヤエルは小声で言う。
すると、ソニアはハッとしたような顔をした。
「あぁ・・・そうね・・・ごめんなさい、私ったら・・・」
「大丈夫、気にしてないし・・・よく言われるから、もう慣れたさ」
睡魔と闘いながら、雨季羽は微笑んで答える。
「何だか弟が出来たみたいで、お姉さん嬉しいな」
それに釣られたようにソニアも微笑んだ。
「大分体力を消耗しているように思います。無理せずに休んで」
ヤエルが言った。
「・・・ああ・・・じゃあ、遠慮なく」
雨季羽は座っていたソファに横になる。
目を閉じて暫らくすると、
手に、肌に、何かフワフワしたような物が触れた。
ソニアかヤエルが毛布を掛けてくれたのだろう。
本来なら、眠りにつくまで時間がかかる雨季羽だが、
今は疲れの所為か、何なのか、すぐに眠ってしまった。
「ふふっ・・・どうしてかなぁ。クールでカッコイイのに、何だか可愛いのよねぇ・・・
ヤエルちゃんもそう思わない?そういえば何歳なのかしら?ヤエルちゃんより下かな?」
「この男、どうせスカルドレインの小日向こひなた 雨季羽うきはよ。身体的特徴からして間違いは無いハズ。
調査書には18歳と書いてあったわ。ま、確かに・・・少し子供っぽく見えるわね」
ソニアとヤエルは雨季羽の寝顔を見つめながら話す。
「周りの話を聞く限りでは、冷静沈着で歳の割には大人びていて落ち着いている、と言う事だけど、
実際に、こうして会ってみると・・・ペットみたいな感じね」
「お姉ちゃんとヤエルちゃんの感性がおかしいのかなぁ?」
「さぁ?それもあるでしょうね・・・私達、変わり者だから」
ヤエルは自嘲気味に笑った。
「それ以前に・・・あの子に似すぎているみたいね」
そう呟いたヤエルの声は、何処か悲し気だった。



この村は『サミア村』と言うらしく、
リゴク洞窟のすぐ近所にある、セント・セリシア地区の村だ。
そしてルキとミリスの怪我は良くなっていったのだが、
まだ2人とも目を覚まさなかった。

結局、雨季羽がプロット宅に居るようになってから結構な日が経った。



そんなある日の夜のこと。
雨季羽は眠れず、村の端にある大きな池を眺めて夜風に当たっていた。
「(結局・・・・動けずじまいで、リオンも答えない・・・影次郎、ステラ、エルディ・・・
上手い事やってくれていればいいんだが・・・)」
思わずため息が零れた。
「(それに・・・・何も分からないまま、俺は・・・生きているのか)」
妖精だの獅子の化身だの言われ、
疑問が不安を呼んでくる気がしてならない。

そんな時だった。

ザッ、と土を踏む音がして、雨季羽は振り向いた。
そこには、黒いロングコートを着て、フードを目深に被っている人物が。
身長は180cmくらいだろう、恐らく男性か。
「・・・・・・」
その人は黙ったまま雨季羽の方を見つめている。
「・・・あの・・・何か」
何処か異様な雰囲気に、雨季羽は警戒した。
「・・・・・・」
それでも黙っている。
しかし、その人はゆっくりと口をあけた。
「死ヌガイイ・・・我ラノ運命ヲ背負イシ男ヨ・・・・」
片言な言葉で言う。
その時に、強い風が吹いた。
風を浴びたフードが脱げる。

現れた顔は異形の魔物そのもので、すぐに魔物であると理解した。

「お前・・・ヴェンディか!」
雨季羽は刀を抜く。
すると、ヴェンディは両手を前へと伸ばす。
長い袖からは手が見えていなかった。
「死ネ」
次の瞬間、両袖から数本の、黒い蛇のような触手が伸びてくる。
「面倒なタイプだ・・・!!」
舌打ちをして、雨季羽は触手を斬り落とすつもりで刀を振るう。
「!」
しかし、もう既に、右腕には一匹巻きついていた。
その一匹は右腕を折ろうとする勢いで腕を締め付けている。
「くそっ!!」
振り払うにも払えず、さらに左腕にも巻きつき、それは胴にも及んだ。
左腕と胴が纏めて強く縛り付けられた。
「うぅっ・・・・」
骨が音を立てて軋んでいるようだ。
彼らは背骨が無いために自由に動き回れる。
締め付ける力が徐々に強まっていった。
そして、一本が喉元まで這い上がってくる。
雨季羽はようやく悟る、首をへし折るつもりなのだと。
「ぐ、あぁっ!!」
そんな読み通りに、首に巻きついて締め付ける触手。
このままじゃ本当に首が折れてしまう。
「ぐぅっ・・・・!」
呼吸が難しくなる。
首が折れるより窒息の方が先だろうな、
等とどうでもいい事が脳裏を過ぎる。
その時だった。

「とても美しく、良い光景ですね・・・小日向 雨季羽さん」
聞いた事のある声がする。
しかし聞いたのは最近ではない、大分前だと思う。
「もっとずっと見ていたいのですが、貴方が死んだら元も子もないので助けてあげましょう」
声の主は見当たらないが、
そう言った声は、まるで笑いを堪えているようだった。
「あがっ・・・あぁっ!!」
とにかく、更に強く首を締め付けられていて雨季羽はパニックだ。
苦しくてもう頭が回らない。
「あははっ、予想通りの可愛さですね〜。いや、それ以上ですか」
声の主が笑っている。
こっちは死ぬ直前なのに。
「大丈夫ですよ、すぐに・・・・」
声の主は笑いながら言う。
その直後、何かが刺さるような鈍い音がし、
それが3回、連続して鳴った。
「グルアアアアァァァァ!!!」
と、ヴェンディが雄たけびのような悲鳴を上げる。
瞬間、雨季羽の体を締め付けていた触手が一気に力を失う。
そして光に包まれてヴェンディが霧散した。
ヴェンディと触手が消えて、奴の向こう側が見えた。
そこに居たのは一人の男―
と思ったのだが、力が抜けて雨季羽はその場に両膝を付いた。
突然大量の空気が肺に流れ込み、
喉が痛くなるほど咳をした。
自然に、じわ、と涙が滲んでくる。

雨季羽は自分の咳き込む音で聞こえなかったが、
男は確実に足音を鳴らして雨季羽に歩み寄っていた。
座り込んで咳き込む雨季羽の隣でしゃがみ、
男は彼の背中を擦った。
「けっ、けほっけほっ・・・す、すいまっ、けほっ!!」
「大丈夫ですよ、落ち着くまで。落ち着いたら借りはバッチリ返していただきますから」
男は笑いながら雨季羽の背中を擦り続ける。


暫らくして雨季羽もやっと落ち着いた。
「す、すいません・・・」
雨季羽は涙目のまま、男に会釈する。
しかし男はどこかで聞いた声であり、どこかで見た容姿だ。
「はぁ〜・・・それにしても残念ですね・・・あぁそうだ、コルセスカがあれば、
あのヴェンディを操って、雨季羽さんを・・・・・」
男が残念そうに独り言を呟く。
「・・・あの・・・何の話でしょうか・・・」
「お子様には聞かせられない、怖いお話ですよ」
と、男は茶化した。
「それより、何処かで・・・貴方は俺の名を知っているし・・・」
雨季羽は訊く。
すると男が悲しそうな顔をして雨季羽の両肩を掴んだ。
「僕を知らないんですか!?どうしてですかぁ!?」
「い、いや、そんなことを言われても・・・」
男は雨季羽から手を離すと、思いっきりため息をついた。
「実は・・・僕、記憶喪失で・・・唯一覚えているのが、貴方の顔と名前だけなんです」
彼はそう言った。
「何も覚えていないのに、貴方の心がこの世の物とは思えないほど美しく感じ、
とても感動した事だけはハッキリと鮮明に覚えてるんです。
ですから、貴方なら何かご存知かと思い、ヘンリエッタさんと追って来たんですよ」
男がそう説明する。
「ヘンリエッタって・・・・ヘンリエッタ=エフェクトスか!?」
「あぁ、はい。そうです」
雨季羽は必死に思い出そうとした。
ヘンリエッタと彼はいつ出会ったのか?


―あぁっ、雨季羽さんっ!!此処に居ましたの?


そこは確か、ヘンリエッタと最後に会った場所・・・


「思い出した!!」
雨季羽は突拍子も無く大声を上げた。
「貴方は・・・ユーフラッド村の僧侶様!!」
あの時、彼は怪我をしていて、
顔には包帯やらガーゼやらで目元や口元以外の殆どが覆われていた。
だからすぐに気が付かなかったのだろう。
「ヘンリエッタさんが言ってました。どうやら僕は僧侶だったみたいですね。
人の心の声を聞くことができたり、人のあらゆるものが見えたり・・・
不思議な力を持っていた、との話なんですが・・・どうやら、記憶と一緒に、力も無くなったみたいですね」
あの時の青年僧侶は笑いながら言った。
「あぁ、申し遅れました。僕の名前はリズ=アミー。リズとお呼びください」
青年僧侶・リズはニコっと微笑んだ。
「それと・・・さっき助けたんで、お礼を頂きたく思います」
「え・・・あぁ、はい・・・でも・・・俺、何も持ってないんですけど」
雨季羽が困っていると、リズは雨季羽を指差した。
「立派な体があるじゃないですか」
そしてまた微笑むリズ。
「僕の言う事を聞いてください。それでチャラですよ」
仕方なく雨季羽はリズに頷き掛けた。
「じゃあ・・・・僕を仲間にしてください」
「え?」
雨季羽は聞き返す。
「それでいいのか?」
不安そうに訊くと、リズは雨季羽を見つめた。
「そのために、貴方に会いに来たんですよ」
そしてまた微笑んだ。
「記憶を失っても、貴方の事だけは覚えているんです。それほど、僕にとって貴方は、
忘れられないほど大切な存在・・・だと思うので」
「リズ・・・」
「だから僕もお供させてください。いいえ、お供しますからね」
「・・・・まぁ、別に構わないんだが・・・・」
「と言うわけですので、明日の朝、此処で待っていますから」
リズは踵を返す。
「では、また明日」
何処に向かおうとしているのか全く分からなかったが、
雨季羽は止めることなく、彼の別れの言葉を受け入れた。










―そんな一方で。

「う、うぅ・・・・」
傷ついたエルディは手を伸ばす。
血で汚れた、その腕を。
「・・・ステラ・・・・影、次郎・・・・」
必死に、仲間でもない2人の名を呼ぶ。
しかし返事が聞こえないどころか、2人の姿は無い。
すると、エルディは力なく微笑んだ。
「死体は・・・・無し、か・・・・せめて・・・貴方、だけ・・・は・・・・」
彼の手が宙を掴むと、彼は意識を失った。

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