モドル | ススム | モクジ

● SKULL DRAIN’s --- 君の声 ●

―ユーフラッド村 診療所。
あれから少し日が経ち、入院中の青年僧侶の体からは、
徐々に包帯が消えていっていた。
「僧侶様」
ヘンリエッタが青年に近づく。
「お加減はよろしくって?」
彼女が尋ねると、青年は頷いた。
「ところで、ヘンリエッタさん。いつまで僕の看病をなさるおつもりで?」
「いつって・・・僧侶様のお怪我が治るまでですわ」
当たり前、とでも言うようにヘンリエッタは言う。
「貴方が怪我をしたのはリエの所為ですわ。貴方の看病をするのは当然の事」
ヘンリエッタは両手を腰に当てて胸を張る。
「責任を感じる必要はありませんよ。世話をしてくださるのは有難いですがね」
青年が言うと、ヘンリエッタは少し困った顔をして黙り込む。
「・・・・リエ、花瓶のお水を換えてきますわ」
机の上にあった花瓶を手にし、
くらい面持ちのままヘンリエッタは病室を後にした。

そんな彼女と入れ違いになるように、
黒いロングコートを着、フードを深く被っている人影が病室に入ってきた。
「誰ですか?」
青年はベッドの上で横になりながら言う。
いかにも怪しげなその人物に、青年は少し警戒していた。
「・・・・・・・・」
その人は、何も答えなかった。


「僧侶様ー、お花を・・・」
ヘンリエッタが言いながら病室に戻ってくる。
しかし、部屋に入るなり言葉を切り、
「・・・・・・あっ・・・」
息を呑んで思わず手にしていた花瓶を落とし、
それは粉々に砕けて花はバサッと微かな音を立て、
花びらが一枚、衝撃で散る。
床に、彼女の足元まで、零れた水が這う。
「そ・・・そう、りょ・・・さま・・・」

白い病室のはずが、バケツで撒いたような赤い模様が描かれている。
ベッドで寝ていたはずの青年は床に倒れ、
おびただしい量の血液に塗れていた。
「僧侶様!!」
ヘンリエッタは、意識を失い倒れた青年の元に駆け寄る。
フリルやレースのついた愛らしい洋服が血で汚れた。





―科学研究都市クーシュッド。
もう一つの学術都市クーシュッド。
ロビュスタが文学の街ならば、クーシュッドは科学の街である。
図書館や学校などは無いものの、
世界で最も化学・物理・地学・生物の理科系研究が盛んな街だ。
そのため、街の殆どが研究施設となっている。

三人は、街の広場で立ち話をしていた。
「・・・ったく、何処もかしこも研究所ばっかで、宿屋が一軒」
影次郎がため息をつく。
「焼き立てメロンパンが食べたかったのにさぁ」
此処最近、彼は大好物を口にしていない所為か、少し元気が無かった。
「結局振り出しに戻ったけど、どうする?」
ステラは雨季羽に視線を送るが、雨季羽もまた元気が無い。
「折角ライに貰った情報だったのに・・・でも、気になる事が一つあるんだ」
「何が?」
雨季羽の言葉に影次郎が首を傾げる。
「『バーントシェンナの玉手箱』を手に入れようとして、邪魔してきたのはアメジストだ。
普通なら“ガーディアン”と呼ばれる守護者が玉手箱を守ってると思うんだが」
腕を組んで考え込む雨季羽。
「それは・・・確かにそうだな。と言う事は偽物・・・?」
ステラがまた雨季羽に視線を送ると、
雨季羽は「多分」と言って頷く。
「じゃあ、ガーディアンを探せば早いんじゃないの?」
「私は影次郎に賛成」
と、影次郎とステラは言う。
「そうは言っても、誰がガーディアンで何処に居るのか・・・」
雨季羽が呟く。

すると、一つの影が三人の前にフッと現れ、
雨季羽は顔を上げ、影次郎とステラは影の方へ顔を向けた。
そこには、一人の女が。
「・・・あの、何か?」
女が声を掛ける前に、雨季羽が声をかけた。
「あぁ、あのね。ちょっといいかしら」
女はそう言った。
「不意に会話が聞こえたんだけれど、貴方達も聖剣を狙っているの?」
そう女に問われた。
「まぁ・・・そうだが。その言い方だと、君もハンターか?」
「ええっと・・・まぁハンターだけど、聖剣は狙ってないわね」
雨季羽の問いに女が答えた。
「ちょっと相談なんだけれど・・・あたしの護衛をしてくれないかしら」
女は言う。
「『常磐のオーブ』の持ち主を知ってるの。教えてあげるから、代わりに付き合ってちょうだい」
それを聞いて三人の目の色は変わる。
「その話、信じても良いんだろうな?」
「ええ、もちろん」
雨季羽が訊くと、女は自信あり気に微笑んだ。
「“ヴェンディ”はご存知かしら?聖剣を求める旅の途中で亡くなった怨霊の事なんだけど」
「さぁ?俺は知らないな」
雨季羽は首を振る。
「私、知ってる」
と、ステラが口を開いた。
「聖剣を求める途中で力尽き、霊となった後でも聖剣を追い求める怨霊・・・
その怨霊が具現化して魔物になった姿を“ヴェンディ”と呼ぶ。
ヴェンディは聖剣を強く求める心を持つ者に襲い掛かるって聞いたが・・・・・」
「あら、よく知ってるわね。その通りよ」
「私達に怨霊退治を手伝え、とでも言いたいのか?」
ステラが尋ねると、女は、ふふっ、と軽く笑った。
「あたしは『ベルフラワーのコルセスカ』の在り処を突き止めたの。
でもコルセスカの在り処は、どうやらヴェンディの巣窟になってるみたいで・・・
あたし一人じゃ流石にどうしようもないのよねぇ」
困ったようにため息をつく女。
しかし、この話が本当なら絶好のチャンスだ。
「・・・・分かった。一緒に行こう」
「コルセスカについてはあたしが貰うわ。その代わり『常磐のオーブ』は貴方達にあげる。
お互い、協力関係にある間は裏切りはナシってことで・・・契約解消後に奪い合う、それでいいかしら」
「ああ・・・構わないさ」
雨季羽は頷いた。
「契約成立ね。契約期間はコルセスカとオーブを手に入れるまで・・・まぁそれまではヨロシク。
あたしの名前はミリス=アイリーン。仲良くしてちょうだいね」
女はミリスと名乗る。

ミリス=アイリーン。
今回スカルドレインに護衛を依頼してきた冒険者の女性。
立場的にはフリーで、何処にも所属していない。

そうして、スカルドレインは新たな仲間を迎える事となった。




―リゴク洞窟。
ミリスと出合って一週間が経っていた。
クーシュッドから北へ歩き続けた場所にある、
暗くて不気味で奇妙な噂が絶えない洞窟であった。
鉱物が採れるわけでもなく、人が寄り付かない場所だ。

そんな入り口から既に暗いリゴク洞窟に足を踏み入れ、
もう1時間程度は歩いているだろう。
何体か魔物とも出会い、ヴェンディにも遭遇した。
魔物やヴェンディの巣窟である事は間違いないようだ。
「ねぇー、もうそろそろ休もうよー・・・」
ここでもやはり体力の無い影次郎が先に駄々をこね始めた。
しかし舗装もされていない、ぬかるんだ地面に足を取られながら歩いたため、
彼が疲れるのも無理は無いだろう、と雨季羽は考えていた。
「ここにコルセスカがあるのは絶対、間違いないんだけれど・・・
万が一の時に備えて、体力は温存しておいた方がいいわね。あたしも流石に疲れちゃったわ。
一旦、此処で休みましょう」
ミリスが提案したこともあり、4人はその場で立ち止まった。
「ミリス、あとどれくらいか分かるか?」
雨季羽は尋ねたが、ミリスは両手を広げて首を振る。
「悪いけれど、此処に来たのは初めてだし、この洞窟の内部地図までは手に入らなかったのよ。
まっ、人が近寄らない場所だから、地図があるのかどうかも微妙だけどね」
困ったように笑い、ミリスは言う。
「とにかく、まだまだ先まで続いているのは確実そうだな」
ステラが言うと、影次郎は深いため息をついた。
「もー。いっつも歩いてばっかだよ」
影次郎は頬を膨らませる。
「それは仕方ないというか、当たり前というか・・・・」
ワガママな影次郎には雨季羽も手を焼いているようだ。
「とにかく、コルセスカだけは絶対、何があっても手に入れたいのよ。力を貸して?」
そう、ミリスが影次郎に言った、
その時だった。

「コルセスカだけは絶対に渡さんぞ」
と、声が響き、4人は振り向いた。
「・・・貴方達だったのか、コルセスカを狙っているというのは」
そこに居たのは、レナール騎士団所属のエルディだった。
しかし後ろにもう一人、少年が控えている。
騎士団員を引き連れず、今日は2人だけのようだ。
「あらあらフェンラッド兄弟じゃない」
ミリスが言う。
「・・・・初めて見る顔ですね」
そこでエルディがワザとらしくミリスに言い放つ。
すると、ミリスは眉を吊り上げて、
「あ、あんた・・・本当に根性捻じ曲がってるわね・・・」
と、搾り出すような声で呟いた。
「エルディ、知り合いなのか?」
エルディの後ろに居た少年が彼に尋ねる。
「あたしが代わりに答えてあげるわ、ボウヤ。そいつの持ってる魔導書は元々あたしの物だったの。
でも君のお兄さんったら手癖が悪くて、あたしから盗んだのよ!」
ミリスは勢いよく人差し指でエルディを指差した。
「人聞きの悪い事を・・・貴方が使ってなかったので、私が貰ってあげたんですよ」
「何ですって?まぁ、その魔導書が無ければ貴方は何も出来ないものね」
エルディとミリスはにらみ合う。
「ルキ、コルセスカが彼らの手に渡れば事態がややこしくなる」
「分かってます。そのために此処に来たんですから・・・」
エルディは少年をルキと呼び、彼もまた答えた。

ルキ=フェンラッド。
エルディの実の弟で、現在17歳。
レナール騎士団の騎士団員見習いであるが、
剣術の腕を買われて第一線で兄と共に活躍を期待されている逸材なのだ。
しかし、優しく争いの嫌いな性格。
争いの無い世界を作るのが彼の夢らしい。

そうしてルキは腰の、左右の鞘から同時に刀を抜いた。
彼は片刃二刀流の使い手だ。
エルディもまた魔導書を開く。
「エルディは他の物体から魔力を吸い取る魔術、吸引術に長けてるわ。
生気を吸い取られたら、一発で死んじゃうから気をつけなさい」
ミリスの警告に、雨季羽たちも武器を構える。
「俺はルキを食い止める。ミリスは俺の援護、ステラと影次郎はエルディを」
雨季羽の指示に、三人が同時に「了解」と頷いた。

まず初めに雨季羽が駆け出す。
するとやはり、引かれあう様にルキも地面を蹴った。
そして手始めにお互い刀を振り下ろし、小競り合いになる。
その脇を素早く影次郎が駆け抜けた。
「兄さんっ!」
ルキが叫んだ。
「よそ見すんなよ!」
すかさずステラがルキの脇に回る。
そして雨季羽が渾身の力を腕に込め、後ろに跳び下がった。
「―遥襲脚 ( ようしゅうきゃく ) !」
直後、ステラが少し飛び上がり、そこから急降下、
まるで槍が降ってくるかのような鋭い蹴りがルキに襲い掛かる。
「くっ!」
それを、ルキは横に転がり避けた。
ステラの蹴りが土を抉る。
「はあぁっ!!」
声を上げて雨季羽がルキに斬りかかり、
ルキも刀を上げて、もう一度小競り合いになった。
「―スプレッド!!」
エルディが叫ぶと、青く光る魔方陣が影次郎の足元に現れ、
勢いよく水柱が立ち上った。
「うわっ!?」
避けようとしたが噴き上がる水に巻き込まれ、
影次郎の体は弾かれる様に吹っ飛ぶ。
水柱は天井の土を削り、濡らした。
「調子に乗るなよ」
ステラがエルディに突進、回し蹴りを見舞う。
それをエルディは魔導書を盾にしながら避け続ける。
集中力を必要とする魔術を使い、接近戦を苦手とする彼にとっては痛手だ。
「貫きなさい、正義をもって!―アースグレイブっ!!」
ミリスが呪文を詠唱すると、地面に黄土色の魔方陣が現れ、
そこから一本の、土の氷柱が突き上げるようにルキと雨季羽の間に伸びてきた。
「くっ!」
2人は同時に後ろに飛び下がって距離を取る。
そして土の棘は消えた。

が。

そこで地面が大きく揺れ始めた。
「きゃあっ!!」
バランスを崩したミリスがふら付く。
「危ない!!!」
倒れないように壁にもたれ掛かって踏ん張るルキの腕を、
雨季羽が力強く、自分の方へ引き寄せるように引っ張った。
直後、天井が轟音を立てて崩れ落ち、

崩落した。

暫らくして揺れが収まり、土埃も地面へと舞い落ちてゆく。
「くっ・・・・」
すこしふら付きながら雨季羽が顔を上げると、
そこには壁が出来ていた。
巨大な岩が重なりに重なり合って。

地震により天井が崩れ落ち、それが壁となって通路を塞いでしまったのだ。

ため息をつきながら雨季羽は振り返る。
「みんな無事か?」
そこにはルキとミリスしか居なかった。
「・・・残念だけど、あたしとルキと雨季羽だけみたいね・・・」
落ち込んだミリスの表情は初めて見た。
「おい!聞こえるか!!」
向こう側へと雨季羽は必死に叫んだ。
しかし返事は無く、雨季羽は舌打ちをする。
「とにかく、一時休戦だ。分かったな、ルキ?」
雨季羽が言い、刀を鞘に納めると、
ルキも渋々、と言った様子で無言のまま刀を鞘に仕舞った。
「ミリス、魔術で何とか出来ないか?」
雨季羽が尋ねると、ミリスは困った様子で天井を見つめ、
「ダメそうね」
首を横に振った。
「魔術を使って、この道を塞いでる岩たちを砕けば・・・それは容易なんだけれど、
きっと今の地震で、この洞窟自体がかなり脆くなったんじゃないかしら。
元々、昔からある洞窟だから老朽化しているだろうし」
ミリスは言う。
「じゃあ、魔術を使って下手に壁を壊してしまえば、洞窟自体が耐え切れなくなって、
僕らは生き埋めになってしまいますね・・・・そう言う事が言いたいんでしょう?」
「ええ、正解よ」
ルキの問いにミリスは微笑んで答える。
が、2人とも不安の色は隠しきれないようだ。
「この先に出口は無いのか?」
雨季羽がそう口にすると、あ、とルキが声を上げる。
「繋がっていた筈ですよ。この場所は取締りの対象になっていたと思います」
「取締り?」
ミリスが首を傾げた。
「この大陸は西と東で分かれています。大陸の真ん中にニース山脈があり、
その山脈が東西を分断してしまっているんです。それはご存知ですよね?」
ルキの問いに、2人は頷く。
「現在、ニース山脈より西側を“セント・セリシア”、東を“ミッシェル・メイアン”と呼んでいます。
東西を行き来するためには、ニース山脈を登り、頂上に設けられた関所を通って山脈を下らなければなりません」
ルキはそう話した。
「じゃあ、まさか繋がってるって・・・セント・セリシアとミッシェル・メイアンが繋がってるのか?」
「関所を通るには多額のお金が必要だわ。なるほど、このリゴク洞窟を通ればタダだし、
何より、数日掛けて山を越えるより断然早いってワケね」
雨季羽とミリスの答えにルキは頷く。
「此処は東側、つまりミッシェル・メイアンです。この洞窟を抜ければセント・セリシア側へと抜けられる筈ですが・・・」
「ダメだ、それじゃあ皆と合流出来ない。関所を通る金も無いしな」
「そうです、問題はそこなんですよ。まぁ、最近は何故だか此処を通る人が全く居ないそうですが・・・」
ルキと雨季羽が悩んでいると、
「悪いけど、問題がもう一つあるのよね」
と、ミリスが口を挟む。
「悪人共が此処を通って行かない理由って、多分“ベルフラワーのコルセスカ”だと思うんだけど」
困ったようにミリスが笑った。
「ガーディアンである『チヒロ=ベルフラワー』が、大人気なく通せんぼしちゃってたりしてね?
ま、とにかく2人には付き合ってもらうわよ。何が何でもコルセスカを手に入れたいから」
「どうしてコルセスカを狙うんですか」
ミリスにルキは鋭い視線を送って言う。
「“ベルフラワーのコルセスカ”には、ヴェンディを自在に操る力があるからよ」
それにミリスはそう答えた。
「やはり、そんな力が・・・・エルディ兄さんの言ったとおりです・・・」
「別に悪用はしないわ。ただ鬱陶しいヴェンディを鎮めるために使うだけよ」
「・・・・・そうなんですか?」
きょとん、とした表情でルキは首を傾げる。
「ヴェンディには色々困らされているのよ・・・だから、あたしはコルセスカが欲しいの。
目的を果たしたらレナール騎士団に寄贈しようと思ってたんだから」
少し怒ったような口調でミリスは説明した。
彼女がコルセスカを狙う理由を知り、雨季羽も納得する。
「ともかく、先に進もう。ここでモメても埒があかないだろう」
それもそうだ、と言うように、
2人は雨季羽に向かって頷き掛けた。



それから随分と歩いた。
薄暗い洞窟を、もう数時間も歩いている。
「おい、あれ・・・」
先頭を歩いていた雨季羽が前方を指差す。
薄暗い道はほぼ直角に曲がっており、
その先から紫色の光が漏れていたのだ。
三人は身構え、武器へと手を掛けながら先へ進み、角を曲がった。

「なんだ、人間か」
そこには無数のロウソクが立てられ、紫色の火が灯っていた。
とても幻想的な雰囲気の中に一人、佇んでいたのは一人の少年。
手には“ベルフラワーのコルセスカ”が。

チヒロ=ベルフラワー。
聖剣守護組織『ガーディアン』の一人であり、
彼が人々から守っているのは“ベルフラワーのコルセスカ”である。
そのコルセスカを武器として振るい、
今までの間、ずっとコルセスカを守り続けた少年だ。
そんな彼は『悪を司る天使』でもある。

「・・・・ん?」
と、チヒロが雨季羽を見て不思議そうな顔をした。
「お前・・・・妖精の匂いがする・・・」
「妖精?」
チヒロに、雨季羽は聞き返した。
「お前、妖精族だろ」
明らかに雨季羽を疑った目で、彼を見つめるチヒロ。
「悪いが俺は人間だ。妖精族とは何ら関わりは無い」
「ふぅん。じゃあ、お前が妖精か人間か・・・解体して調べてやろうか?」
「・・・は?」
チヒロの言葉が分からず雨季羽は動揺したが、
構わずにチヒロはコルセスカを構えた。
「まずは蝿を一匹」
呟き、次の瞬間にはチヒロが消えていた。
「がっ!!」
そしてまた次の瞬間に短い悲鳴が響く。
ルキだ。
「ルキっ!!」
咄嗟に叫びながら雨季羽とミリスはルキの方を見た。

刀を抜く暇は無かった。両手には何も無い。
ただ、彼の腹に、コルセスカの真っ直ぐな刃が突き刺さっていた。

何てスピードだ。
「貴様っ・・・・」
眉間に皺を寄せ、雨季羽は刀を抜く。
「お前・・・ライオンの、獅子の匂いもするな・・・ハーフか?クォーターか?
まぁいいか。次はそこの女だ・・・覚悟しな!!」
チヒロは勢いよくコルセスカを引き抜き、
ルキの体が崩れるように倒れた。
「よくもルキをっ!!」
ミリスが声を上げ、素早くチャクラムをチヒロに投げつける。
「お前は悪魔の匂いがする」
無表情でチヒロはチャクラムをコルセスカでなぎ払った。
「えぇ、そうよ。あたしの母は悪魔だった・・・それが何よ!」
「天使にとって悪魔は敵対種族なのさ」
チヒロが構えて走り出す。
雨季羽はそんなチヒロとミリスの間に入り、
刀を思いっきり振り下ろした。
それはコルセスカの柄で受け止められ、金属同士がぶつかり合う音がする。
「降るは失意の雨・・・―アイスニードル!!」
ミリスが呪文を詠唱し、宙に水色の魔方陣が現れ、
そこから数本の氷柱が矢のように、チヒロに向かって振りかかった。
「邪魔だ、お前」
それを後ろに跳んでチヒロは避け、
「―ヴォルトスパーク!」
コルセスカを思いっきり地面に突き刺した。
すると一気に地面に電流が走り、地面が紫色に光る。
「ぐあああっ!!!」「きゃあああっ!!」
電流は一気に2人の体を貫いた。
魔術が発動したのは一瞬だけだったが、かなりのダメージだ。
雨季羽は崩れるように倒れ、
魔術に対する抵抗力の高いミリスは両膝を付いて座り込んでしまった。
彼女は抵抗力のおかげで雨季羽ほどダメージは受けていない。

ヴォルトスパーク。
全方向、術者の周囲に、一気に放電する雷系魔術だ。

「・・・・ふんっ、弱いな」
チヒロは鼻で笑い、ミリスを睨む。
「僕は何よりも悪魔がキライなんだ。消えてくれ」
「あぐっ!!」
低いトーンで呟いて、チヒロは右足を水平に振るい、
ミリスを蹴り倒した。

「消えろ」
そして何のためらいも無く、チヒロは、
仰向けに倒れたミリスの腹にコルセスカの刃を突き刺した。
「・・・ミリスっ・・・・!」
倒れ、意識が朦朧とする中、雨季羽の目に、
その光景が映った。
「邪魔者は消えた・・・後はお前の解剖だ。妖精と獅子の魔力を持つ者なんて初めてだからな」
チヒロが、血の付いたコルセスカを手に歩み寄ってくる。
「安心してくれ。死んだ方がマシだと思うような痛みを感じさせてやるから」
クス、というチヒロの笑い声が聞こえた気がした直後、
雨季羽は、ふっ、と意識を失った。







「起きろよ」
呼ばれて雨季羽が目を覚ますと、
そこは真っ暗で、何も無い世界だった。
黒の背景、地面。
と言うよりかは奥行きも無く、黒の世界に浮かんでいるような感覚だ。
不思議と痛みも何も感じない。
寧ろ体は軽い。
立ち上がり、顔を上げると、

目の前には、血のような真紅の瞳を持つ自分が、自分を見つめていた。
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