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● SKULL DRAIN’s --- 消えた宝物 ●

―セゼル火山地下。
地表はいつマグマが噴出し、流れるかが分からないために危険である。
そのため、魔物も住み着こうとはしない。
しかし、地下は空洞のようになっており、
暑い場所、なおかつ日の当たらない場所でしか生活できない魔物にとって、
この空洞の場所は快適な環境なのである。
それに、昔は人が鉱物を採掘していたらしく、道が作られている。
人間や魔物が近づけるのはこの地下だけだ。

「・・・・熱いな」
噴出した汗を袖で拭いながら雨季羽は呟く。
「何日も歩き続けて疲れてる上に、この暑さとくれば流石に・・・・」
長い袖を捲くり、ステラも歩き続ける。
が。
2人が足を止めて振り向くと、
少し離れて影次郎が必死に歩いていた。
「も、もういいよー・・・先に行ってていいからさぁ」
影次郎も足を止め、肩で息をしている。
「ステラ、まだいけそうか?」
「大丈夫とは言えないけど、影次郎よりは・・・」
ステラも息が上がっているが、
入り込んでくる熱い空気はさらに呼吸をし難くする。
「先に行ってろ」
「いいよ、私も待ってる」
雨季羽は言うが、ステラは首を振る。
そうこうしている間に、影次郎が2人に追いついた。
しかし、かなり苦しそうだ。
「ぼ、僕・・・もう・・・・・」
息苦しそうに言葉を吐き、ついに影次郎はしゃがみ込んでしまった。
「居れば居るほど、休めば休むほど体力が奪われる。行くなら行く、
帰るなら帰るで早く決めないと体が持たないぞ」
汗を拭い、ステラは言う。
熱気が、徐々に三人の体力を奪っているのは明らかだ。
「せめて何か手掛かりが欲しかったんだが・・・・」
雨季羽は腕を組み、考え込む。
落ち着きが無くなり、辺りをゆっくりと円を書くように歩いている。
と、何かに躓いた。
「うわっ!?」
転びそうになったところを、ステラが彼の腕を引き寄せ、
何とか無事だった。
何に躓いたのか、と思って二人は下を見る。
影次郎は動く気力も無い様子だ。
「これって・・・・」
雨季羽が呟く。
それは白く、丸い・・・と言っても楕円のような形の物で。
「頭の骨じゃないのか?人の・・・・」
ステラは言う。
「・・・・っぽいな」
見れば見るほど人の頭の骨だ。
「ライは競争率が高いって言ってたけど・・・それってさぁ」
「俺たちのように此処に辿り着いて、そのまま・・・って事か?」
「みんな、セゼル火山にヒントがあるってのは分かっても、そのヒントを持ち帰れないのか」
ステラは言う。
「都合良く、天井から落ちてこないのかなぁ」
影次郎が地面と見つめあいながら呟いた。

その時。
ゴトン、と音を立てて何か箱のような物が上から、天井の方から落ちてきた。
「ほ、本当に落ちてきた」
雨季羽は驚きながらも、恐る恐るその箱に近づく。
「この箱・・・赤茶色っぽいな」
「ちょ、ちょっと待て雨季羽」
箱に近づく雨季羽を、ステラが慌てて止める。
「バーントシェンナは、黄赤色って意味を持ってて・・・多分、それって・・・」
続きを言わず、ステラは息を呑んだ。
「た、玉手箱って事は何が出てくるか分かんないんだろ?触って大丈夫なの?」
影次郎も言う。
「で、でも・・・色や箱型って所からして、これが『バーントシェンナの玉手箱』じゃないのか?
触らないと、どうしようもないし・・・」
雨季羽は恐る恐る近づき、しゃがんで箱へと手を伸ばす。

「待て、スカルドレイン!!」

三人が前方を見上げると、
声高らかに笑う一人の少年が、大きな岩の上に立っている。
「シズネ!!」
雨季羽が叫んだ。

シズネルヴァ=A=ハーペル。
愛称は『シズネ』、13歳の少年。
世界の平和のために聖剣を求めている武装組織『アメジスト』のリーダー。
東の果てにある、“貴人国 ネフライト”の第一皇子。
そのため、13歳と言う若さではあるが権力と経済力は頼れる。
常に横柄な態度を取り、その様を崩さない、スカルドレインの一番の敵。

「どうやら・・・天井に埋まっていた『バーントシェンナの玉手箱』が、
天井の風化により、たった今、運よく落っこちてきたみたいだね」
シズネはそう分析する。
「で、どうする?競争するかい?」
言いながらシズネは掌を合わせて、パンパン、と手を叩いた。
それが合図だったらしく、三人の後ろや、岩の陰から武装した兵士が現れる。
「・・・やはり、簡単にはいかないようだな」
雨季羽は腰の鞘から刀を抜く。
「影次郎、少しぐらいは無理してくれよ」
「あー、もうハイハイ。しょうがないなぁ」
影次郎も雨季羽の言葉に頷いて、やっと立ち上がり刀を抜いた。
「まぁ、僕の後に続いてセリフを言ってくれたら、見逃してあげてもいいよ」
シズネは言う。
「その聖なる足で踏んでください、シズネ皇子様。ハイ復唱」
三人を見下しながら。
「雨季羽、あんたリーダーなんだから踏まれてこいよ」
「お、俺!?嫌だ、絶対に嫌だ!!」
ステラの冗談(半分本気)に必死で首を振る雨季羽。
「ったく、優柔不断な男だね。そんなんだから18年生きていて彼女が出来ないんだよ」
「関係ないだろ、それは!!」
13歳の嫌味に雨季羽は吼えた。
「彼女が居ないなら使う必要ないんじゃないの?僕が踏んであげてもいいよ」
ニコ、とシズネが笑った。
「・・・・・お前・・・歪んだ13歳だな・・・」
「大人と言って欲しいね」
「皇子にしては少し品が無いな。少しじゃなくて“かなり”か?」
「黙れよ生息子が」
「うっ・・・・!」
雨季羽はノドに言葉を詰まらせる。
「おいおい、言われてんぞ雨季羽。事実だけど・・・・」
からかうようにステラは言う。
「・・・・もういい・・・さっさと片付けて帰るぞ」
暑さとシズネの嫌味で体力も精神力も持ちそうに無い。
雨季羽は雑念を払うように刀を振り、構える。
「来るなら相手してあげよう。勝つのは僕の方だけどね!」
シズネは杖を岩に突き立て、呪文の詠唱に入る。
それを合図に兵士達が襲い掛かってきた。
「影次郎!玉手箱を!!」
雨季羽の言葉に、了解、と小声で影次郎は答え、
彼の脇を猛スピードで潜り抜けた。
そして雨季羽とステラは兵士達との戦いへ。
「うらああぁぁっ!!」
その黄赤色の箱―バーントシェンナの玉手箱―だけを見つめ、
影次郎は手を伸ばして飛び掛る。
「地獄の業火よ、裁きを下せ・・・―イラプション!!」
シズネの詠唱が終了した。
「うわぁっ!」
地面が赤く光り、咄嗟に影次郎は地面に手をついて横に転がる。
直後、地面から炎の渦が噴火のように立ち昇り、
『バーントシェンナの玉手箱』や土も一緒に吹き上げた。
炎系魔術―イラプション―はその一瞬で終わり、
シズネは岩の上から跳んで、宙を舞う『バーントシェンナの玉手箱』を掴み取る。
そのまま宙で一回転し、着地する。
「返せよ!!」
影次郎は立ち上がってシズネに向かっていく。
「お断りさ。僕らも暑い中、必死に探し回ったからね」
シズネは『バーントシェンナの玉手箱』を左手で小脇に抱え、
右手で杖の柄を強く握る。
「―ブロウアウェイ!!」
左から右方向へと、シズネは力強く杖を水平に振るい、
突風のような衝撃波を生み出した。
「ぐわぁっ!?」
それを思いっきり正面から受けてしまい、
影次郎の体は簡単に浮き上がって吹き飛ばされた。
「そのまま落ちろ、烈火マグマの中へと!!」
高笑いをするかのようなシズネの声が響き渡る。
吹き飛ばされ、体が宙に投げ出された影次郎の真下には、
赤く燃える溶岩。
「うわああああぁぁぁ!!!」
耳を劈くような影次郎の悲鳴の中に、
彼を呼ぶ声が微かに混じる。

反射的にギュッと、硬く閉じた目を開ける。
「雨季羽!?」
影次郎の腕を、雨季羽が掴んでいたのだ。
「くっ・・・・」
少し顔を歪ませ、雨季羽は片手で地面を押し、
勢いよく影次郎の腕を引いて引き上げた。
途中からは、影次郎も地面に手を突いて、自らの力で上る。
見れば、2人を守るようにステラが戦っていた。
「くそっ!!雨季羽、もう諦めた方がいい!」
ステラも息が上がり、疲労していると目に見えて分かった。
「・・・くっ・・・僕も、この暑ささえなければ・・・安心してくれ。
一応『バーントシェンナの玉手箱』は手に入ったし、さっさと退散するさ」
肩で息をするシズネ。
彼もこの暑さには堪えているようだ。
「じゃあね、スカルドレイン」
シズネが手を振ると、後ろに控えていた兵士が呪文を詠唱し、
アメジストの兵士達とシズネが光に包まれて、消えた。
魔術の一種であるテレポートを使ったようだ。
「とにかく此処を出よう。話はそれからだ」
雨季羽は刀を鞘に戻しながら言う。

結局、『バーントシェンナの玉手箱』はアメジストに奪われてしまった。




その夜。
セゼル火山近くの草原で、三人は焚き火を囲み、野宿をしていた。
「うぅー・・・ダメだ、僕、今日は疲れたよ・・・・」
欠伸をして、影次郎は芝生の上で横になった。
「もう寝てていいぞ。見張りは俺がするから」
雨季羽が言うと、影次郎は頷いて目を閉じた。
神経質な雨季羽にとっては羨ましいもので、影次郎はすぐに眠ってしまう。
そして、一度眠ると起きない体質。
「・・・・ステラも疲れてるだろ?」
「私は平気。雨季羽こそ、少し休んだ方がいい。ロクに休んでないんだし」
「俺も大丈夫だ」
お互いに譲り合う雨季羽とステラ。
「じゃあ、影次郎も寝たことだし、二人で大人の話でもする?」
ステラが影次郎を指差す。
見てみると、彼は早くも寝息を立てていた。
「・・・・・話か・・・話題も無いな」
雨季羽は星空を仰いで呟く。
「あるだろ。どうして雨季羽に彼女が出来ないのか・・・じゃなくて作らないのか」
「・・・・・・俺はそういうの興味無いし、恋愛なんて言ってる余裕も無いんだ」
ステラが雨季羽の顔を覗き込んだ。
「ちゃんと考えがあるなら言ってよ?」
言うと、雨季羽が俯いた。
「考えなんて立派なものじゃないが・・・もうこれ以上、大切なものを増やしたくないんだ」
雨季羽は答える。
「大切なものは、俺の両手に納まるくらいにしておかないと・・・溢れたらお終いだから」
「・・・貴方の両手の中に、私は居る?」
「当たり前だろ。仲間なんだから」
すると、ステラはホッとしたように、
「よかった」
と、言った。
「ま、俺の両手から溢れた代表が・・・俺の家族や友達なんだろうな」
不意な雨季羽の言葉に、
ステラは何も返せなくなって黙ってしまった。
「もう昔の事だが・・・ただ話すだけで精一杯だった女の子が居たんだ」
「・・・・・何それ、初恋の話?」
「ああ」
雨季羽は頷く。
「でもその子、結局、死んだから」
また沈黙になる。
「・・・・内戦で、死んだんだ、みんな・・・人も、村も、俺の中の何かも、みんな死んだ」
「雨季羽・・・・・」
「俺はまだまだ半人前だから・・・欲張って全部守ろうとしても、無理なんだよ」
よく見れば、雨季羽は泣きそうな顔をしていた。
「ごめん、俺・・・本当は何も要らないんだ・・・ごめん・・・」










「ねぇクローメル。私と一緒に居てくれる?」
あの知らない女の子を、私は見つめた。
きっと女の子からは私は見えていない。

そう、これは夢なのよ。

「いいよ、マリア」
マリア。女の子の名前ね、きっと。
クローメルは・・・男の子かしら?
女の子みたいだけど。
「クローメル、あのね・・・」
あぁ・・・
マリアはクローメルの事が好きなのね。





「天使は、神様から力を与えられて初めて天使になれるのよ」
あの女性は・・・マリアの母親だわ。
優しそうだけど・・・何処か悲しそうな表情ね。
「貴方は“導き”を司る天使になるのよ」
神様から力をもらう事は、天使になると言う事。
天使になると言う事は、自分を捨てると言う事。
自分を捨てると言う事は、別人になると言う事。
「分かった」
あぁ、マリア・・・
そんなに簡単に頷かないでよ・・・
貴方は、天使になる事の大変さを分かってないわ。
自分を捨てて、違う人になると言う事。
ちゃんと分かってよ、ねぇ。


煙が目にしみるわね、マリア。
何を燃やしているの?

それは写真?
そう、写真を燃やしているのね。
思い出を燃やさなければならないものね。


「さぁ、目を開けて」
天使になるための儀式が終わったのね。
マリアのお母さん、心配そうに見ているけど・・・
「マリア、本当に天使になってしまったのね・・・・おめでとう」

あれは・・・私だ。

「ねぇ、私、どうしたの・・・?あ・・・あー・・・声も私の声じゃないわ」
マリア・・・
「体が・・・・成長してる?ねぇお母さん、鏡をちょうだい」
お母さん、悲しそうに鏡を渡さないでよ。
不安になるじゃない、マリアが。
「・・・これが、私・・・?こんなの私じゃないわ!!」
「仕方ないのよマリア!天使になると言う事は、別人になると言う事よ」
「それでも・・・体は大人で、声も顔だって全然違うし・・・私じゃない!!」
「貴方は、“導き”を司る天使になったのよ。マリアとしての生活は出来ない。
貴方はこれから、マリアを捨てて生きていくの。マリアはもう死んだのよ」
マリア・・・
辛いわよね、分かるわ。

だって貴方は私だから・・・

「貴方は今日から、“導き”を司る天使として生きていくの。
貴方はもうマリアじゃない。貴方は・・・」



―ステラ―



「ねぇ、君」
私はクローメルに声を掛けた。
「マリアって子、知ってる?」
私は大人に、しかも男になったけど、
クローメルや他の幼馴染はまだ子供。

「ううん、知らないよ」





「・・・・・!」
ステラは目を覚ます。
「・・・あれ・・・・」
頭がボーっとする。
「あぁ・・・ごめんなさい、眠ってしまった・・・」
「いいんだ。疲れるような事したんだし、気にするな」
雨季羽はステラに言う。
「ごめん・・・・折角、雨季羽が話してくれてたのにさ」
「いや・・・お前こそ、大分うなされてたけど」
「夢を見たの」
ステラは思い出していた。
さっきまでの夢を。
「天使になるためには、神様から力を授けられなければならない。
天使になれば、容姿が“導きを司る天使”の姿に変わってしまい、周りは自分を忘れる」
そして何のためらいも無く、話した。
「・・・・そんな夢を見た・・・と言うより、思い出した、かな。
この事、知られると面倒だから影次郎や他の人には内緒にしておいてね」
ステラは困ったように笑い、人差し指を唇に当てた。

ステラが他人に、初めて過去を語った瞬間だった。
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